1.生活習慣病及び加齢性疾患に有効な天然薬物の基礎研究

 植物の二次代謝産物は動物の生体成分に構造が似たものが多く、それらはタンパク質の機能を直接あるいは間接的に調節できること、さらに、生体に異物として認識される可能性が低いことが容易に想像できる。そこで当研究室では、生活習慣病や加齢性疾患の発症・進展に機序を精査して、新規性・独創性の高い標的を定め、さらにキーワードとして選択性(臓器選択性、細胞選択性、タンパク質(酵素、レセプター)選択性etc)を有する天然物の探索及び細胞、動物レベルでの有効性の解析を行っている。そして、生活習慣病・加齢性疾患の発症を抑制できるような選択的薬理活性を有する天然物の新たな疾患予防・治療への応用を目指している。

2.天然由来核内受容体アゴニストの探索及び疾患への応用研究

 核内受容体はリガンド依存的に遺伝子発現を制御する転写因子で遺伝子スーパーファミリーを形成しており、これまでにヒトでは48種類が見出されている。核内受容体サブファミリー2に属するレチノイドX受容体(RXR)は、サブファミリー1に属するliver X receptor (LXR)、peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR)、retinoic acid receptor (RAR)、vitamin D receptor (VDR)、farsenoid X receptor (FXR)とヘテロダイマーを、また、RXRホモダイマーを形成することで遺伝子の転写活性を調節している。そしてこれらは、生体内において細胞の増殖分化・糖代謝・脂質代謝・骨代謝・免疫応答など様々な生理作用に関与している。特に上記核内受容体は、1)生体内代謝産物を内因性生理的リガンドとしていること、2)リガンド結合部位が比較的大きいため、リガンド特異性が低く、種々のリガンドを結合できること、3)リガンドにより誘導される核内受容体の構造変化の違いにより複合体にリクルートされる転写調節因子の種類が異なり、最終的に活性化される遺伝子が異なること、などの特徴を有している。植物成分には生体成分に構造が類似した化合物が多く存在しており,これらは核内受容体の転写活性を巧妙に調節し、生体の恒常性維持機構の破綻を防ぐことができる可能性が考えられる。そこで当研究室では、各種核内受容体に対する細胞/組織選択的リガンドを探索することにより、生活習慣病、加齢性疾患の発症・進展を抑制できるような新たな疾患予防・治療薬の開発を目指している。



図. アミロイドβの分解・除去における核内受容体の関与

・ブラジル産プロポリス由来RXRアゴニストの同定

 プロポリスは、ミツバチが植物の新芽や樹脂を集めて作る樹脂製混合物であり、ミツバチは巣の隙間をプロポリスで埋めることで建材として用いるのみでなく、巣内の抗菌性を保つ働きがあると考えられている。プロポリスの成分は、基原となっている植物に由来し、地域間で大きく異なる。サプリメントとして最もよく用いられているブラジル産のものは、キク科植物Baccharis dracunculifoliaを主な原料として産生されており、他地域のものと異なる成分系を有している。ブラジル産プロポリスに関する過去の多くの研究では、桂皮酸誘導体の一種であるartepillin Cを主な生理活性成分として抗菌活性・抗腫瘍活性・抗酸化活性等が報告されてきた。我々の研究室では、ブラジル産プロポリスのEtOH抽出エキスがレチノイドX受容体(RXR)アゴニスト活性を有することを新たに見出し、活性を指標とした化合物の分離精製を行うことでその活性本体としてdrupaninを同定した。一方、従来多くの生理活性が報告されているartepilin Cに関しては、RXRアゴニスト活性を全く示さなかった。更に詳細な検討を行った結果、drupaninはRXRアゴニスト活性の他、弱いPPARγアゴニスト活性を有する事が判明し、PPARγ/RXRデュアルアゴニストであると結論付けた。

K. Nakashima et al., Identification of a naturally occurring retinoid X receptor agonist from Brazilian green propolis. Biochim. Biophys. Acta, 1840, 3034-3041 (2014). [PubMed]

3.アンメット・メディカル・ニーズに応える漢方方剤の創製

 漢方方剤は長い年月の使用経験に基づいて多くの疾患治療に利用されてきたが、未だ多くの漢方方剤は科学的根拠が明らかにされないまま使用されている。漢方研究者の絶対数の少なさも1つの原因になっているが、この30年間に漢方方剤の研究はかなり進んできた。漢方医学の理論に従って使用されている漢方方剤には、現代の我々が罹患する各種疾患に有効なものが多いもの事実である。当研究室では、漢方方剤の有用性を立証するために漢方方剤を1つの薬剤と見なして、疾患動物モデルで高脂血症、糖尿病、動脈硬化、関節リウマチ、骨粗鬆症、筋萎縮症に使用される漢方方剤の解析を行ってきた。最近では特に超高齢社会における健康寿命の延長の観点より、骨格系(骨・筋肉)の機能改善に有用と考えられる漢方方剤に焦点を絞って研究を進めている。一方、当研究室では多くのin vitroアッセイ系を有しており、多くの漢方処方用生薬の活性をスクリーニングしデータを蓄積してきた。これらの蓄積したデータと生薬の古典的薬能を考慮して、生活習慣病や加齢性疾患に有効な漢方方剤を創製していきたいと考えている。


教員 大学院生等 6年生 5年生 4年生

論文・書籍 学会発表

担当科目一覧 薬用植物学 生薬学 天然物化学

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