我々の研究室では、球形晶析技術をベースとした高分子ナノ粒子による薬物送達技術の開発、難水溶性化合物の可溶化技術の開発、臨床で用いられる軟膏剤の使用性改善をメインテーマに掲げ、以下のような研究に取り組んでいます。

1)歯周病治療を始めとするバイオフィルム感染症治療を目的とした新規ナノ粒子DDSの開発
生体内に形成されたバイオフィルム形成菌に対し、ほとんどの抗菌剤が無効になってしまい、その除去は困難で難治化しやすい問題があります。そこでバイオフィルム形成細菌叢へ効率良く薬物を送達し、抗菌作用を向上させることができるDDSキャリアとして生分解性ナノ粒子を設計することを目指しています。イオン液体を用いたバイオフィルムのその場観察技術を利用し、粒子径効果やナノDDSの作用発現メカニズムの解明などにも取り組んでいます。さらに、抗炎症剤のDDSも併せて投与することで、歯周病による歯の脱落を防ぎうる製剤の開発を目指す。

2) 難水溶性の薬物をサブミクロン化あるいは固体分散化し、その溶解性を向上させうる製剤の開発
晶析技術を応用し、サブミクロンサイズのナノ結晶とし、比表面積の増大、非晶質化、濡れ性の改善などにより、難水溶性薬物の溶解性改善を試みています。さらに、界面活性作用を有する高分子と難水溶性薬物とで固体分散体を形成させることで、溶解度、溶解速度を改善可能な製剤の設計を試みています。さらに、従来の固体分散体設計とはことなり、固体分散体の基剤となる高分子に易水溶性低分子量化合物(具体的には糖アルコール)を配合することで、溶解度の向上だけで無く、速やかな溶解性も併せ持つ製剤の設計を試みています。

3) シクロデキストリン包接化による難溶解性薬物の溶解性改善
難溶解性薬物をシクロデキストリンに包接化することにより、溶解性の改善を試みています。特に、単結晶X線構造解析をはじめとする包接化のメカニズム検討を中心に、溶解性等の薬物の物性改善効果に及ぼすシクロデキストリンの影響について検討しています。

4) モーズペーストの使用感向上を目指した処方改良
皮膚に形成された腫瘍の切除などに臨床的に用いられているモーズペーストは、調製直後にはペーストが硬く、また数時間経過すると物性が変化し、柔らかくなるものの非常に強い粘着性を示すようになります。このため、臨床で使用する上で、皮膚に塗布しづらいといった問題点を有しています。この問題点について、物性変化の機構を明らかにすると伴に、処方改良を試みています。