研究テーマ

当研究室では、2011年に花王鰍ニ共同で、洗濯物の生乾き臭は、4−メチルー3−ヘキセン酸(4M3H)であり、これは洗濯後の衣類に残存しているMoraxella osloensisが産生していることを突き止めています。以来、当研究室では、如何にしてM. osloensisを制御し、4M3Hの放出を減少させることができるかの研究を行っております。
その成果の1つとして、約60℃の温度に曝すことにより、水に懸濁状態の細菌では100%、布に付着した状態の細菌でも99%以上、殺菌できることを突き止めています。
 M. osloensisは健康な人には、稀にしか病原性を示さない日和見菌ですが、本菌が発する臭いはヒトの日常生活に関与しますので、QOL (Quality of Life) の観点から、研究を推進しています。
(これらの情報は一般の方に広く知って頂くため、これまで多くのTV番組、ラジオ番組でご紹介しています。右図は、当講座の取材をもとに、2020年5月29日に放送された、NHK「チコちゃんに叱られる」の一場面です))
Helicobacter cinaediは、近年分離報告が増加している感染症原因菌であり、国内の複数の医療施設で院内感染を引きおこしている注意すべき菌種です。本菌種による感染症は、「新興感染症」として位置づけられています。
H. cinaediの染色体上には130 kbp程度の特異的な領域があり、CRISPR/CasやVI型分泌装置(T6SS)の遺伝子クラスターが含まれています。我々は、本菌種のCRISPR配列を利用した新たな分子疫学解析法を見出し、遺伝的多型と分布状況を把握して、院内伝播経路を解明する研究を行っています。

また、感染患者の治療を行うには細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を知る必要があります。我々はH. cinaediの発育に適した液体培地を見出し、MIC測定のための微量液体希釈法を確立しました。それにより、国内で分離される本菌種の多くはマクロライド系、キノロン系、βラクタム系抗菌薬に中〜高度耐性であり、その薬剤耐性には、遺伝子の変異や薬剤排出システムが関与していることが分かってきました。
さらに、H. cinaediの再発メカニズムやT6SSの機能について研究し、本菌種の病原性解明を目指しています。
・洗濯物生乾き臭原因菌Moraxella osloensisの制御に関する研究

・細菌の分類・同定と感染症の診断・起炎菌の迅速検出に関する研究

 細菌分類学とは“未知の菌に対し、その特徴を明らかにし(狭義の分類)、名をつけて(命名)、その菌であることを決定できる方法(同定)を提唱、運用する”事を通し、その知識を集積して、生物の多様性とその相互作用を研究する学問であるといえるでしょう。
 当研究室では、現在の細菌分類学で主流となっているpolyphasic taxonomyの考え方に則り、細菌の形態、生理生化学性状、化学組成分析、遺伝子の塩基配列に基づく系統分類、ゲノムDNA夾雑試験、等の各種技術を駆使し、臨床分離株のみならず、環境由来菌などの分類・同定を行っています。

・炎症性腸疾患(IBD)の起因微生物の特定と治療・予防への展開
潰瘍性大腸炎(UC)はクローン病とともに炎症性腸疾患に分類され、国の特定疾患に指定されています。日本における患者数は18万人を越え、世界規模で増加の一途を辿る現在においても発症原因は解明されておらず、根本的な治療方法も確立されていません。
そこで、当研究室では遺伝的背景、食生活、腸内細菌構成が多様なヒトではなく、UC研究に広く用いられている、薬剤誘発性UCモデルマウス糞便の精査解析を実施しました。そして、大腸炎を発症したマウにおいて有意に多く存在する特定菌種を見出し、当該菌の経口投与がモデルマウス病態増悪能を有することを実験的に証明しました。さらに、その後の分類学的精査によって、当該菌が既存種とは異なる、新規の亜種であることを明らかにしています。現在、当該菌の病態増悪因子の同定に努めており、UC治療の提案、予防へと展開させていきたいと考えています。
(図には、単独でUCモデルマウス病態増悪を示す細菌の電子顕微鏡図を示す)

・新興・再興感染症の原因菌の特徴と病原性に関する研究

日本の薬学系微生物学担当研究室で細菌分類学を研究の中心に位置づけている例は無く、当講座は日本の薬学系大学で細菌分類学を専門とする唯一の研究室です
 教授の河村は、民間企業研究員時代に2つの細菌同定キットの開発を手がけ、続く12年間は岐阜大学医学部微生物学講座にて、細菌分類学の研究に携わってきました。これらの経験を生かし、今後も細菌分類学に貢献して行きたいと思っています。 また河村はICD (Infection Control Doctor) の資格も取得しておりますので、院内感染をはじめ、様々な感染症の原因菌の特定、疫学的調査などを通して細菌分類学で培った技術を社会還元したいと思っています
院内感染や薬剤耐性菌の問題など、感染症をめぐる現代の医療はますます複雑化し、原因菌の迅速かつ正確な特定が求められています。

 










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